これまでに何台、自作PCを組んできたか。数えたことはある。どれも動いたし、どれもそれなりに速かった。それなのに、組み上がって一週間もすると、机の下のその箱にほとんど興味がなくなっていた。次のパーツの値段を調べはじめている。
理由が長いあいだ分からなかった。パーツの選び方が下手なのか、予算が足りないのか、そもそも自作に向いていないのか。今回、Fractal Design の Pop Mini Air という mATX ケースで一台組んでみて、ようやく腑に落ちた。私はずっと、ケースをケチっていたのだ。
先に断っておくと、この記事は個人的な思い込みの記録です。実測もベンチマークもありません。それでも、同じところで満足感を落としている人はいるはずだと思うので、思い込みの中身を、できるだけ確かめられる形で書き出します。
同じ世代のパーツは、思っているより横並びだ
ここからしばらくは私の持論で、言い過ぎだと自分でも思っています。
同じ世代・同じ価格帯のパーツを選んでいるかぎり、机の前に座ったときの手触りは、思っているほど変わらない。ベンチマークの順位は入れ替わるし、重い作業をする人にはその差が効く。それは事実として認めます。ただ、ブラウザを開いて、ゲームを立ち上げて、寝る前に電源を落とすという一日の中で、その差が「このPCを持っていてよかった」に化ける瞬間は、私の場合ほとんど来なかった。
一方でケースは、毎日見る。電源ボタンを押すたびに触る。音は座っているあいだずっと鳴っている。増設のたびに開けて、また閉める。総体としてのモノとしてのPCの価値を決めているのは、じつはこっち側なのではないか——というのが、いまの私の立場です。
念のために書いておくと、このサイトにはスペックの読み方や予算配分の記事があって、そこでは用途によってスペックの差がはっきり効く場面を扱っています。撤回しません。あれは性能の話で、こっちは満足度の話だと思ってください。軸が違います。
メッシュの箱が、静かだった
Pop Mini Air は名前のとおり「Air」で、前面が独特の六角形パターンのメッシュになっています。冷やすための設計であって、静音を売りにした製品ではない。だから正直、音については期待していませんでした。
それが、静かだった。これは私の感想です。
仕様表のほうを見に行くと、同梱されているファンは Aspect 12 RGB で、公式の記載は回転速度 1200 RPM、ノイズレベル 18.3 dB(A)、最大エアフロー 32 CFM(54.4 m³/h)。ブレードは7枚、ベアリングはライフル、電源コネクタは3ピンです。3ピンということは PWM ではない——回転数の制御は電圧側でやることになります。これが前面2基と背面1基の計3基入っていて、さらに2基足して合計5基まで載る。
ここから先は私の理解であって、確かめた話ではありません。メッシュで吸気の抵抗が小さいと、同じだけ冷やすのに必要な回転数が下がる。回転数が下がれば、音は落ちる。つまりこのケースの静けさは、音を遮ったのではなく、そもそも回さなくて済んだほうの静けさなのだろう、と思っています。仕様表から立てた推測です。
もうひとつ。18.3 dB(A) はファン単体の公称値であって、組み上がったPCの音ではありません。ケースに付けて、電源とストレージとGPUの音が乗ったところが実際の音です。dB という単位の読み違えやすさについてはファンレスPCの記事でまとめてあるので、数字で静音を語りたい人はそちらへ。
静音版のほうが、中が狭いという話
ここが今回いちばん面白かったところです。
Pop シリーズには、同じサイズで Pop Mini Silent という兄弟がいます。こちらは密閉式のフロントおよびトップパネルに、瀝青製の吸音フォームを貼り付け済みのサイドパネル。名前のとおり、静けさを正面から狙った設計です。
外寸は、どちらも 432 × 215 × 393 mm で同じ。ところが中身の数字は、こう分かれます。
| 公式仕様(同じ外寸の兄弟) | Pop Mini Air | Pop Mini Silent |
|---|---|---|
| 正味重量 | 5.96 kg | 6.18 kg(Solid)/6.23 kg(TG) |
| GPU最大長(前面ファン取付時) | 365 mm | 340 mm |
| 合計ファンマウント数 | 5 | 3(上面ファンは N/A) |
| 埃フィルター | 上面・PSU・前面の3か所 | PSU・前面吸気の2か所 |
同じ外寸の箱なのに、静音版のほうが重い。そしてGPUが 25 mm 短くしか入らない。密閉したパネルと吸音フォームは、外から見えないところで、内側の空間をきっちり食っているわけです。ファンを載せられる場所も、上面が丸ごと消えて5か所から3か所になる。
どちらが静かかは書きません。私は Air のほうしか組んでいないし、比べる耳も測定器も持っていない。ただ、「静けさを買う」という選択が、同じ外寸の中で何と引き換えになっているのかが、仕様表の上でこれほどはっきり見えるのは珍しい。ケースを選ぶというのは、こういう分岐を選ぶことなのだと、この二台の表を並べて初めて分かりました。
気の利いた設計は、仕様表の隅に書いてある
「使い勝手がよかった」という感想を、確かめられる項目に置き換えると、だいたい次のあたりになります。
- 前面メッシュがダストフィルターを兼ねている——メーカーは「手入れが楽なフロントメッシュは、高いエアフローを確保しながらダストフィルターとしても働きます」と説明しています。埃フィルターは上面(有孔プラスチック)、PSU(ナイロン)、前面(有孔鋼板)の3か所
- マジックテープが2つ、最初から付いている——ケーブル配線用の空間は 19 mm
- 磁石式カバーのストレージドロワー——5.25インチベイ2台ぶんが、蓋の裏に隠せる小物入れになっている
- 左が強化ガラス、右が鋼鉄(RGB Black TG Clear の構成の場合)。見せる側と隠す側が最初から分けてある
組み込みの上限は、CPUクーラーの最大高が 170 mm、PSU 最大長が 150 mm(電源種類は ATX)、拡張スロットは4、前面・上面のラジエーターはどちらも最大 240 mm。GPU は前面ファンを付けた状態で最大 365 mm です。
弱いところも書いておきます。前面インターフェースは USB 3.0 が2ポートとオーディオと RGB コントローラーで、USB Type-C(10 Gbps)は標準では付いていません。別売のアップグレードキットを買う必要があります。ここは、いまどきのケースとしては見送られやすい点だと思う。保証はメーカー公称で2年。国内での取り扱いは購入経路によって条件が変わりうるので、そこは販売ページで確かめてください。
「気が利いている」の正体は、たぶん組む人の手順が順番どおりに想像されていることです。マジックテープは、ケーブルを縛りたくなる場面より前に付いている。フィルターは、掃除したくなる場所に付いている。仕様表の一行一行は地味ですが、地味なぶん、毎回効きます。
私がいま、まず見にいくメーカー
順位ではありません。予算の桁も、思想もばらばらです。「見た目で選んでいい」と開き直った人が、最初に眺めておくと後悔が少ないと私が思っているところを挙げます。まずは mATX まわりから。
Fractal Design は、スウェーデンの Fractal Gaming AB。今回の Pop シリーズのほかにも、木材を使った North や、Mini-ITX の Ridge、Era など、同じ会社とは思えないくらい顔の違う製品を並べています。Lian Li は小型でもA3-mATX(26.3L・側面と天面がスチールメッシュ・ケース設計は DAN Cases との協業)やB4-mATX(21.3L)といった、寸法を先に決めてから中身を詰めたような製品を持っている。NZXT は H3 Flow(35 L の Micro-ATX)と H2 Flow(20.7 L の Mini-ITX)があり、公式サイトでは、部品を主役にするために全機種を中立的なビジュアル言語でそろえている(原文 a neutral visual language keeps your components the hero)と英語で説明しています。
下は各モールをメーカー名で検索した結果へのリンクです(個別の商品ページではないので、モデルが入れ替わってもリンクは生きます)。検索結果には ATX のミドルタワーなど大きいものも混ざります。mATX・Mini-ITX を探すときは、商品名か絞り込みで形状を指定してください。
リンク先は各モールの検索結果です。特定の商品を推奨するものではありません。在庫・価格・出品者・保証条件は常に変動するため、購入前に商品ページで最新の状態をご確認ください。
もっと小さくして、机の上に出したくなったら
mATX よりさらに小さいところは、まったく別の世界です。電源が SFX になり、CPUクーラーの高さが一気に効いてきて、配線の順番を間違えると最初からやり直しになる。それでも、机の上に出して置ける大きさになると、PCは家具に近づきます。
JONSBO は、自社のケースについて、性能上の要件を満たすだけでなく机の上の芸術品でもある(原文 not only meeting the performance requirements but also the home art on the desktop)と英語サイトで説明している会社で、M-ATX と ITX のシリーズを持っています。SilverStone は SUGO と ALTA という毛色の違うシリーズを並行して持っている会社で、通販で見かける SUGO には Mini-ITX 向けのケースが並んでいます。方向はまるで違いますが、どちらのメーカーも「小さくすること」を機能の制約ではなく設計の主題にしているところが共通しています。
こちらもメーカー名での検索結果です。Mini-ITX 向けは在庫が動きやすく、取り扱いも入れ替わります。買う前に対応マザーボードの形状と保証条件を商品ページで確認してください。
リンク先は各モールの検索結果です。特定の商品を推奨するものではありません。在庫・価格・出品者・保証条件は常に変動するため、購入前に商品ページで最新の状態をご確認ください。
それでも、ケースを最後に回していい人
ここまで書いておいて何ですが、私の持論が当てはまらない人もはっきりいます。
ケースにお金をかけなくていい場合
明日から仕事で使う一台:迷わず保証のある BTO のほうが楽です。趣味の満足度と、業務の安心は混ぜないほうがいい。自作とBTOの比較へ
本体を机の下に置いて、見ない人:見ないものにデザイン料を払う理由はありません。その予算はモニターか椅子へ
常時ヘッドホンの人:静音への投資は体感に返ってきにくい。冷却の余裕だけ確保すれば十分
初めての一台:極端に小さいケースは、配線の順番と冷却の両方で難度が上がります。まずは素直な大きさで一度通してからのほうが、たぶん楽しい。初心者が陥りやすい失敗へ
逆に言えば、毎日それを見る人・机の上に置く人・何年も同じ箱で中身だけ入れ替える人には、ケースの予算はいちばん長く効きます。中身は世代が変わるたびに入れ替わっていきますが、箱はそのまま残ります。私が「ケチっていた」と気づいたのは、そこでした。
参考にした資料
- Fractal Design「Pop Mini Air(RGB Black TG Clear)」(本文の寸法・重量・対応サイズ・フィルター・保証)
- Fractal Design「Pop Mini Silent(Black Solid)」(比較表の Silent 側)
- Fractal Design「Aspect 12 RGB」(同梱ファンの回転速度・ノイズレベル・コネクタ)
- LIAN LI「Cases」(A3-mATX・B4-mATX の容積と対応形状)
- NZXT「Cases」(H3 Flow・H2 Flow の容積と対応形状、ビジュアル方針)
- JONSBO 公式(英語)(同社のケース観とシリーズ構成)
- SilverStone 日本語サイト(SUGO・ALTA という2系統のシリーズの存在)
次に読む
- ケースは毎日見て、毎日触って、音を毎日聞く部品——中身を入れ替えても残りつづける
- Pop Mini Air は前面が六角メッシュで、そのメッシュがダストフィルターを兼ねる。同梱ファンは 1200 RPM・18.3 dB(A) 公称の3ピン品が3基(最大5基)
- 同じ外寸 432 × 215 × 393 mm でも、静音版の Pop Mini Silent は GPU が 340 mm までで、Air の 365 mm より 25 mm 短い。吸音材は内側の空間を食う
- USB Type-C は Pop Mini Air では標準装備ではなく別売アドオン——「気の利いた設計」にも抜けはある
- 小型ケースは GPU 長・CPUクーラー高・電源奥行きの3点を公式仕様で照らしてから買う
- 明日から仕事で使う一台、机の下に置いて見ない一台なら、この記事の持論は当てはまらない