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その相談、AIに読まれたくない人へ
——ProtonのプライバシーAI「Lumo」の実力と、正直な限界

チケットが一件、届いていた。差出人は伏せる。中身はだいたい、こんな調子だった。

「ChatGPTに人間関係の相談をしてみたら、返ってきた答えが的確すぎて、逆に怖くなった。使うのをやめるべきか、それとも別のAIに乗り換えるべきか」

似た相談を、この数か月で何度も受けている。仕事の資料整理や議事録の要約なら、みんな平気でAIを使う。ところが相手が「体調」「お金」「家族」「転職」になった途端、指が止まる。この履歴、どこかに残るんじゃないか。学習に使われて、いつか誰かの答えの材料になるんじゃないか。正直、この相談は他人事とは思えなかった。

先に結論を書く。私は「AIをやめろ」とは言わない。「気にしすぎだ」とも言わない。仕事や開発の相談は、使い慣れた最新モデルのままでいい。他人に読まれたくない私的な相談だけ、設計からしてプライバシーを軸に据えた別のAIを一枚、手元に置いておく。今回はその使い分けの話をする。相手は、Protonという会社が作った「Lumo」というAIだ。

切り分け——「渡している情報」を仕分ける

不調の相談を受けたとき、私が最初にやるのは原因の絞り込みだ。「PCが遅い」という一言の裏には、常駐ソフトの詰まりもあれば、単にストレージが満杯なだけの場合もある。切り分けずに部品を買い足しても、たいてい当たらない。

AIとの付き合い方も、同じ手順で切り分けられる。まず、自分がAIに渡している情報を二つの箱に分けてみてほしい。

箱を二つ用意する

一つ目の箱:仕事と調べもの。会議の議事録、コードのレビュー、企画書の壁打ち。社外秘ではあっても「個人の内面」ではないことが多い。ここで効いてくるのは回答の速さと賢さで、使い慣れた最新モデルはこの箱にとても強い。

二つ目の箱:私的な相談。体の不調、家計、家族との軋轢、転職を考えている事実そのもの。漏れて困るのが自分一人であることが多い。ここで先に見るべきなのは、賢さより「渡した文章がどこでどう扱われるか」という設計そのものだ。

箱を分けたら、あとは道具を選ぶだけになる。一つ目の箱は、いま使っているAIでいい。二つ目の箱に何を入れるか——ここでLumoの名前が出てくる。

Lumoとは何者か

Lumoは、Protonという会社が2025年7月23日に公開したAIチャットだ。Protonという社名にピンと来なくても、暗号化メールの「Proton Mail」や「Proton VPN」なら聞いたことがあるかもしれない。プライバシー企業として積み上げてきた考え方を、そのまま対話型のAIに持ち込んだ製品、という位置づけになる。

使い始めるハードルは低い。lumo.proton.me を開いて入力するだけで、アカウント登録なし・無料で試せる。さらにTor経由でゲストアクセスを使えば、ログインもProtonアカウントの作成もなしに匿名で使えるとProtonは説明している(Tor経由の通信は仕組み上どうしても遅くなりやすいので、そこは織り込んでおいたほうがいい)。

何が違うのか(診断)

チケットで言えば「診断」に当たる部分だ。Lumoが掲げている設計上の特徴を、現場の言葉に翻訳しておく。いずれもProtonが自社で説明している設計であって、第三者が検証した結果ではない、という前置きつきで読んでほしい。

ゼロアクセス暗号化

会話の履歴は暗号化して保存され、復号できるのは利用者自身の端末だけ——Proton自身にも読めない設計だとしている。「自社にも読めない」は強い主張なので、次の節でもう一段掘り下げる。

ノーログ

応答を作り終えたリクエストを、AIを動かしているサーバー側に残さない設計だという。

学習に使わない

利用者との会話やアップロードした内容を、モデルの学習には使わないとProtonは明言している。

オープンソースのモデルを、自社の欧州データセンターで動かす

米国や中国のAI企業と提携する形ではなく、問い合わせを外部の第三者に送らない構成だとしている。どのモデルを使っているかの具体名は、私が確認した範囲の公開情報では見つけられなかったので、ここでは書かない。

ゴーストモード・ファイル解析・Web検索

会話ウィンドウを閉じた瞬間にその会話を消せる「ゴーストモード」がある。アップロードしたファイルの中身を読ませたり、Proton Driveのファイルを参照させたり、頼めばWeb検索もする。

Protonは自社サイトに、Gemini・Copilot・OpenAI・Claudeと並べた比較表を掲げ、「AIのトレーニングにデータを使用しない」「チャットをログに記録しない」「データを誰とも共有できない」「広告のないビジネスモデル」「プライバシー保護の強い法域に拠点を置く」「ソースコードを一般公開」の各項目にLumoの「はい」を並べている。ただしこれはProtonが自社サイトに掲げた比較であって、第三者の検証結果ではない。同じ表の中でも、Claudeには「広告のないビジネスモデル」の項目に○が付いている。他社の扱いを知りたければ、その会社自身のプライバシーポリシーと設定画面を開いて確かめるのが確実だ。

正直な限界——ここを飛ばすと宣伝記事になる

情シス時代、私が一番信用しなかったのは「絶対に安全です」と言い切るベンダーだった。この記事でいちばん丁寧に書きたいのは、ここだ。

大前提として、Lumoは完全なエンドツーエンド暗号化(E2EE)ではない。AIが答えを作るには、送った文章を一度は「読める」形にする必要がある。だから応答を生成しているサーバーは、平文の会話を扱う。Proton自身がこれを認めていて、通常のE2EEの定義とは違うという理由で、あえて「User-to-Lumo(U2L)暗号化」という別の呼び方をしている。……この一文を解説ページで見つけたとき、正直、意外だった。だが同時に、自分で限界を名指しして書く会社の説明のほうを、私は信用する。

仕組みはこうだ。端末側でその都度の暗号鍵(AES鍵)を作り、それをLumo側の公開鍵(PGP鍵。データの世界の鍵の規格の一種)で包んでから、通信路(TLS)に乗せる。Proton内部の中継システムは中身を読めない。読めるのは、実際に応答を作るサーバーだけ——という段取りになっている。「誰にも読まれない」ではなく、「答えを作る係が、答えを作る瞬間だけ読む」と理解しておくのが正確だ。

保存されたあとの会話は、会話ごとの鍵からマスター鍵、そして利用者の鍵へ、という階層で守られる。この構造だと、最後の錠前はアカウントのパスワードということになる。裏を返せば、パスワードを失えばその先の会話も開けなくなる構造だ、と読める。パスワード管理を軽く見る人には向かない。

「それなら完全準同型暗号を使って、AIにすら読ませずに済ませればいいのでは」という疑問はもっともだ。Protonもそこには触れていて、この方式の実験では応答に1日以上かかった例があると説明している。理論上は理想でも、いま実用に耐える速さではない、というのが同社の立場だ。

まとめるとこうなる。Lumoは「誰にも読めない魔法の箱」ではない。「答えを作る瞬間以外は読まれないように設計された箱」だ。この違いを分かって選ぶのと、「絶対安全」と思い込んで使うのとでは、何かあったときの納得のしかたがまるで違う。

もう一点、正直に書いておく。Protonは、スイス政府による大規模監視の提案をめぐる法的な不確実性を理由に、物理インフラの大半をスイス国外(EU域内)へ移す方針を表明していて、Lumoはその第一号に位置づけられている。移転が完了したという情報までは確認できていないので、ここでは「そういう方針を表明している」以上のことは書かない。

性能の現在地——2.0で何が変わったか

Lumoは公開後、短い周期で更新されてきた。1.1が2025年8月21日、ダークモードなどの1.2が2025年10月16日、法人向けのLumo for Businessが2025年10月30日、プロジェクト機能の1.3が2026年1月13日。そして2026年6月30日に2.0が出た。7月8日にはデザインが刷新され、直近では8月3日にデータの可視化(グラフ化)機能が加わったと告知されている。

2.0の変更は幅広い。推論モデルの強化、画像の認識・生成・編集への対応、出典を引用する形でのWeb検索の強化、長期記憶とプロジェクト、コンテキスト長の倍増、用途別に仕立てられるカスタムLumo。単なるチャットボットから仕事の道具へ寄せようとしているのが伝わる。

Protonは独立系のベンチマーク「Artificial Analysis Intelligence Index」を使い、2.0のLiteが旧版の1.4比で127%、Maxが240%スコアを高め、日常的な問い合わせへの応答も1.4比で最大76%速くなったと公表している。

ここははっきりさせておきたい。この数字はいずれもLumoの旧バージョンとの比較であって、ChatGPTやClaudeの最新モデルと同じ土俵で測った値ではない。だから「1世代前のGPT相当」といった換算は、私は書かない。言えるのは「Lumoは着実に強くなっている」というところまでだ。なお同社は、2026年6月30日時点で1,000万人以上が使い始めた、とも記している。

現場の感覚で言えば、優劣そのものより用途を分けるほうが実用的だ。コードの実装や大量の資料の要約のように、賢さと速さの差がそのまま作業時間の差になる仕事は、使い慣れた最新モデルに任せておけばいい。一方で、体調や家族やお金の相談のように「渡した内容がどう扱われるか」を先に見たい場面では、多少の性能差はそもそも比較の土俵に上がってこない。

PCではどう使うか

チケットの最後は、実際の使い方だ。

PCで使う場合は、ブラウザで lumo.proton.me を開く形になる。案内されているのはWebアプリとAndroid/iOSのモバイルアプリで、Windows・Mac向けの専用デスクトップアプリの案内は見当たらなかった。PCではブラウザで使うもの、と理解しておけばいい。Androidアプリは Google Play のほか F-Droid や GitHub でも配布され、APK署名の指紋(SHA-256)が公開されている。改ざんされていないか自分で確かめたい人向けの配慮だ。

音声入力は、現時点ではモバイルアプリだけの機能で、ブラウザでは使えない。ブラウザ版とモバイルアプリは同じ会話にアクセスできるので、PCで始めた相談の続きを移動中にスマホで読み返す、という使い方はできる。

無料と有料の線引き

試すだけなら無料で始められる。有料のPlusプランは、私が確認した時点でスイスフラン建ての表示になっており、月払いでCHF12.99/月、年払いだとCHF9.99/月(12か月ごとにCHF119.88の請求で、月払い比マイナス23%)、30日間の返金保証が付いていた。通貨はCHF・EUR・USDの3種から選ぶ形で、円建ての表示はない。

FreeとPlusの差として挙げられているのは、上位の「Max」モデルの利用量、メッセージ数とチャット履歴、画像生成の回数、扱えるプロジェクト数(Freeは1件)、カスタムLumoの数だ。具体的な上限の数字までは料金表に出ていないので、実際の枠は申し込む前に確認したほうがいい。ここに書いた金額は2026年8月4日時点の表示で、為替でも改定でも動く。契約前に必ず公式の料金ページを見てほしい。

Protonという会社と、その周辺

Lumoの背後にいるProtonは、AI専業の会社ではない。2014年、CERN(欧州原子核研究機構)で出会った科学者たちがスイスで立ち上げた会社で、同じ年の夏、1万人以上から50万ドル超を集めたクラウドファンディングで動き出した。運営はスイス法人のProton AG(ジュネーブ)で、筆頭株主は非営利のProton Foundation。ベンチャーキャピタルの出資は入っていないという。自社サービス全体では1億人以上に使われている、と同社は記している。

この生い立ちが効いているのが、Lumoより前からある製品群だ。PCの相談窓口らしく、それぞれ「何が嬉しいのか」を生活の言葉で書いておく。

Proton Mail——受信トレイを広告の材料にしない

暗号化されたメールサービスで、受信トレイの中身をゼロアクセス暗号化で守る設計だとしている。無料プランもあり、参照時点の料金表では「1GBのストレージ・メールアドレス1個」。広告ではなく有料契約者の支払いで運営していると説明している。「メールの中身を広告の材料にされたくない」人が最初に見る候補になる。

Proton VPN——カフェのWi-Fiが怖い人に

通信の中身を外から見えにくくする仕組みだ。通信の履歴を記録しないノーログ方針について第三者の外部監査を受けたとしており、アプリのコードも公開されている。140か国以上に20,000台以上のサーバーを持つ。無料プランについては「データ制限なし」と説明しているので、外出先で仕事のメールを開くのが不安な人には率直に効く。VPNの無料・有料の利用者には、暗号化メールやパスワード管理、5GBのクラウドストレージといった無料枠も付いてくる。

Proton Drive——家族の書類を置く場所として

エンドツーエンド暗号化のクラウドストレージで、無料枠は5GB。パスワード付き・有効期限付きの共有リンクを作れる。Windows・Mac・Android・iOS・Webのどこからでも使える。

Proton Meet——会議を録られたくないとき

エンドツーエンド暗号化のビデオ会議だ。無料プランは最大50人・1時間まで、有料では1回の通話に最大250人まで入れる。アカウントを作らなくても、自分のほかに最大3人(合わせて4人)までの会議をその場で作れる。ZoomやTeams、Google Meetは既定ではE2EEではない、という比較をProtonは掲げているが、これはProton側の主張として受け止めて、各社の現在の設定は自分で確認したほうがいい。

共通しているのは「Protonでさえ中身を読めない」というゼロアクセス暗号化の考え方だ。Lumoの限界として書いたU2L暗号化は、この考え方を原理的に文章を読まないと成立しないAIチャットへ、どこまで持ち込めるかという挑戦だと私は理解している。

処方——使い分けの表

情シス時代、チケットの最後に私が書いていたのは、いつも同じ一行だった。「これで様子を見てください。悪化したらまた連絡を」。今回も同じ形で締める。

相談の中身処方
仕事の資料整理・要約・議事録使い慣れたAI(ChatGPT/Claudeなど)でよい
コードの実装・技術的な壁打ち賢さと速さが効く場面。最新モデルに任せる
体調・家計・家族・転職など、読まれたくない相談Lumoのような、プライバシー設計を主軸に置いたAIを検討する
一回きりで、記録も残したくない相談Lumoのゴーストモードや、Tor経由のゲストアクセスを使う
いまの使い方に特に困っていない無理に乗り換えなくてよい。まず自分がAIに何を渡しているかを棚卸しするだけでいい

最後の行は念を押しておく。この記事は「AIを乗り換えろ」という記事ではない。いまの道具に満足していて、私的な相談もそれで困っていないなら、それでいい。困っていないものを買い替えろとは、私は言わない立場だ。ただ、渡す情報の中身によって道具を分けるという発想だけは、頭の片隅に置いておいて損はない。

チケットを閉じる

差出人には、こう返そうと思う。「AIをやめる必要はない。渡す相手を、話の中身で分けてみてください」。

仕事や開発は、これまでどおり使い慣れた最新モデルでいい。そこに不満はないはずだ。ただ、読まれたら困る話をするときだけ、設計からプライバシーを軸に据えたAIを一枚、手札に加えておく。Lumoは、その候補として今のところ攻守そろった構えに見える——完全に何も読まれない魔法ではない、という限界を分かったうえでなら。

このチケットは、ここで一度閉じる。何か引っかかったら、また相談票を書いてほしい。

参考にした資料

この記事の数値・引用は、以下のページを直接開いて確認しました(確認日:2026年8月4日)。

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免責・更新情報

本記事は、AIチャットに渡す情報の切り分けという観点から、プライバシー保護を主軸に設計されたAI「Lumo」と、提供元であるProtonのサービス群を整理した読みものです。特定の事業者・サービスの利用を推奨するものではなく、セキュリティや暗号化の専門的な助言でもありません。冒頭の相談は、同種の相談をもとにした仮想のケースです。記事中の機能・提供形態・料金・プランの内容は2026年8月4日に各公式ページで確認した時点のもので、改定や為替により変動します(料金はスイスフラン等の外貨建て表示で、円建て表示はありません)。暗号化やログの取り扱いに関する記述は、Protonが自社サイトで公表している設計上の説明に基づくもので、第三者による検証結果ではありません。他社のAIサービスの取り扱いについては、各社のプライバシーポリシーと設定をご自身でご確認ください。申し込み・利用の前に、必ず公式サイトの最新情報をご確認ください。(最終更新:2026-08-04)

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